「研究は失敗の連続、この対処方法で進捗度合いが大きく変わります」

岸本透弥 氏
2024年3月卒業
電子物理デバイスコース 根尾研究室
浜松ホトニクス

岸本透弥氏は2023年に14th International Vacuum Electron Sources Conference (IVeSC2023) Outstanding Student Award for poster presentation※を受賞されました。物質科学科電子物理デバイスコースでの研究内容や受賞に関してお話を伺いました。

※「International Vacuum Electron Sources Conference (IVeSC) Outstanding Student Award for Poster Presentation(IVeSC2023)」、IVeSCと呼ばれる国際的な学会で、ポスター発表を行った学生に対して与えられる優れた学生賞です。IVeSCは真空電子源の基本原理、技術、応用にかかわる研究成果の発表及び討論を目的としています。
この賞は、ポスターを通じて研究を発表した学生の卓越した業績を認識するために授与されます。ポスター発表は、研究者が大きなポスター上で自分の研究内容を視覚的に表示し、学会参加者と対話する形式の一般的な発表形式です。

-岸本さんが電子物質科学科を選んだ目的は何でしたか?

大学2年になって、この学科の魅力はなんといっても、物理系の電子物理デバイスコースと化学系の材料エネルギー化学コースの2つのコースが自分で選択できるという点でした。高校のときは物理と化学が好きだったんですけど、それをどう活かせばいいのかよくわかりませんでした。大学に入ってから幅広く物理系と化学系を学びながら、自分が本当にやりたいのはどちらなのかを見つけるために、この学科を選びました。

研究の背景と目的についてお尋ねします

-今回受賞のIVeSCは真空電子源とのことですが、なぜこのテーマに興味を持ち研究を始めることになりましたか?

ラボワークという制度(研究室配属前の学部3年時に、研究室に仮配属して研究体験ができる制度)を使って現在の所属研究室である根尾研究室で研究体験しました。その際に現在の研究テーマでも利用しているプラズモンについて勉強する機会があり、光を利用して見えない現象を扱うこの分野に興味を持つようになりました。そこで4年時に正式に研究室配属されたときにプラズモンに関わる研究をしたいと思い、今のテーマで研究を始めることになりました。

-研究の背景や目的について教えてください。

私の研究は、表面プラズモン共鳴を利用した金属ホトカソードの作製を行っています。ホトカソードとは、光を照射すると光電効果により光電子を放出する陰極のことを言います。従来の金属ホトカソードは、入射した光子に対して光電子の放出割合が低い、つまり低量子効率という課題があります。そこで表面プラズモン共鳴という金属特有の現象を利用して高量子効率化を実現することで、金属ホトカソードの利点である高速応答性を活用して優れた時間分解能を持つ電子顕微鏡の開発といった様々な応用が期待できます。

研究プロセスについて

-研究を進める中での最も困難だった部分は何でしたか?

ホトカソードの作製プロセスの条件設定が困難でした。私の研究では、ナノスケールで微細な凹凸周期構造をカソード上に作製するのですが、作製するために細かい条件設定が必要になります。この条件を決めるには、実験を積み重ねて得た結果を基に改善を繰り返すという過程が必要になります。この過程で失敗原因を突き止めることができずに実験が行き詰ることが多かったので、研究を進める中で最も困難だった部分はホトカソードの作製プロセスだと思います。

-実験や調査の際に特に注意したポイントはありますか?

実験が失敗したときの原因追及を一人で考え込まないようにしていました。自分自身で調べて考えることだけでなく、一人で抱え込まずに教授に積極的に相談することで、より着実に実験が進んでいったと思います。

-研究を遂行させるにあたり、教授のサポートが大きかったとのことですが、「好奇心と探究心、柔軟性と適応力、コミュニケーション能力、失敗への対処(一人で抱え込まない)」の項目についてどれが一番強く必要に感じましたか?

失敗への対処が一番必要だと感じています。研究は失敗の連続で、失敗した後の対処で研究の進捗度合いが大きく変わると思います。そのため、失敗した際には一人で考え込むのではなく教授の助言を加味して次に繋げることが大事だと思います。

IVeSCの学生賞受賞について

-研究を発表する際、特に強調したいポイントやメッセージはありますか?

発表する上で一番重要視していたポイントは、できる限り分かりやすく説明するために図を用いて説明することです。私の研究に関して詳しく知らない方もいる中で、研究について簡単に理解をしてもらうのには、言葉だけでなく図を使うことが大事だと思うので、図を頻繁に使うことを発表する際のポイントとして意識していました。

-受賞の瞬間やその後の感想について教えてください。

まさか受賞できるとは思っていなかったので驚きました。それと同時に、これからの残りの期間で研究をより一層頑張ろうという気持ちになりました。また、この賞を頂けたのは特に根尾先生、文先生のご指導があってこそだと感じており感謝の気持ちでいっぱいでした。

-指導教員が研究にどのように影響しましたか?

相談しやすい雰囲気を作ってくださっていたので、よりスムーズに研究が進んでいけたのかなと思います。また、一人で悩むといったことがほとんどなかったので気楽に研究できる環境であり、私にとっては良い影響しかなかったと思います。

-研究を進める上でのモチベーションを維持するための秘訣はありますか?

私の場合は学会への参加をモチベーションにしていました。学会発表までに、どこまで研究を進める必要があるのかを決めて、それを目標に計画を立てていくことでモチベーションを維持していました。

岸本さんと根尾先生

国際会議への参加について

-International Vacuum Electron Sources Conference への参加が研究にどのような影響を与えたと考えていますか?

自信に繋がり、これからより一層研究頑張ろうといったプラスの影響を受けました。また、研究だけでなく英語に対してのやる気が出てきたので、英語に対しての意識が変わったという面でも良い影響を受けたなと思います。

-他の学生や研究者にとって、国際会議への参加の重要性はどのように説明しますか?

国際会議への参加はした方が良いと思います。私自身、英語が苦手なのですが、この国際会議への参加をきっかけに英語を頑張ろうという気持ちが芽生えたので、参加して良かったと思っています。これから社会で生きていく中で英語を避けては通れないと思うので、国際会議への参加を通して英語へのやる気や苦手意識を克服するきっかけにうまく活用するのが良いと思います。

将来の展望について

-受賞を機に、今後の研究やキャリアにおいてどのような目標を持っていますか?

具体的な目標はないのですが、今回自身の苦手な英語を扱う国際会議への参加で賞を頂けた経験から、苦手だと思うことにも臆せずチャレンジしていくことを社会人になってからも意識し続けていきたいと思っています。

-最後に、岸本さんからこれから電子物質科学科に入学を目指す皆さんへのメッセージをお願いします。

大学では時間はたくさんあるので、勉強以外でも色々な経験をしていって、自分が将来何をしたいのかを考える時間にするといいと思います。私は飲食店でのアルバイトを大学一年時からしていました。アルバイト先では、後輩の教育に携わる機会があるなど色々な経験ができ、人間関係でも恵まれていたのでとても楽しかったです。また、多くの人と話す機会があるので、人前で話すような学会の場でもこの経験は活きていると思います。

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