「実験条件の再現性と観察方法の妥当性の重要性を学びました」

大石琴水氏、竹内美月氏
2024年3月卒業
電子物理デバイスコース 小野篤史研究室

工学専攻電子物質科学コースの大石琴水氏、竹内美月氏の二人は小野篤史研究室で研究していました。大学院での研究内容や学習環境についてお尋ねしました。

電子物質科学科を選んだ目的についてお尋ねします

-静岡大学工学専攻の中で、どのような理由で電子物質科学コースを選びましたか?

(大石さん)私は将来ゲームに関わる仕事をしたく、電子物質科学であれば、半導体からディスプレイのことまで幅広く学べると考えたからです。
(竹内さん)私は高校生の頃、漠然と工学分野の仕事に就職したいと考えていましたが、具体的に何をしたいのか、自分の向いている職業は何であるのかなどは全く考えていませんでした。実家から近い静岡大学の工学部の学科を調べた際に、電子物質科学科は物理分野だけでなく化学分野など広い専門分野を学ぶことができると感じました。静岡大学で勉強していく中で自分のやりたいことを見つけるために電子物質科学科を志望しました。

-大学院に進むことを決めた理由を教えてください。

(大石さん)就職する際に研究や開発などのものづくりに関わる職に就きたいと思い、 学部までの1年では十分に研究に対する実験に進め方や作製したモノに対しての評価方法などは十分に身につかないと考えたからです。
(竹内さん)私が大学院を志望した理由は、学部生として1~3年生までは専門知識の基盤を習ったのみであり、より専門的な知識を身につけたいと考えたためです。4年生の1年間のみで自分の研究を理解し進めていくのはあまりにも短い期間であると考えました。上述した自分のやりたい分野が光学分野であったため、より専門的な知識や現在どのような技術が世の中に普及されているのかなど、就職する際のやりがいや自分の貢献できることが増やせるように大学院への進学を決意しました。

研究の背景と目的について

-なぜこのテーマに興味を持ち、研究を始めることになりましたか?

(大石さん)応用先に注目をして、テーマを決めました。もともとゲーム関係の職に就きたいと考えており、ゲーム機やスマートフォンにも使用されている有機ELディスプレイへの応用に向けた研究を選びました。
(竹内さん)初めに小野研究室を志望した理由からお話します。小野研究室では表面プラズモン共鳴という現象を用いた研究を主に行っています。金属内の自由電子が振動するこの現象によって、金属をナノ構造化したさいに色の変化が生じます。たとえば、金と言われたら金メダルの色を思い浮かべると思いますが、金をナノスケールに小さくすると赤色に発色します。この色変化がディスプレイ技術などに応用へ期待されており、私はディスプレイなどの電子機器の開発に興味があったため、小野研究室を志望しました。小野研究室では先輩方から初めに研究紹介をしていただきますが、研究紹介を聞いた際に、実際に作製しているサンプルを見せてもらう機会がありました。ナノスケールの小さいサンプルだけでなく、合成したサンプルは色の変化が顕著に見られました。色の変化が目に見えて観察できる「銀ナノワイヤの合成と表面プラズモン共鳴伝播モードの顕微分光観察」というテーマに興味を持ちました。
私は学部4年生と大学院でのテーマが違います。卒業時の私の研究テーマは「ITOナノ粒子集積膜の赤外表面プラズモン共鳴モードの解析」です。ITOは透明材料であり、液晶ディスプレイに応用されています。このITOをナノ粒子化し、周期的に配列すると、表面プラズモン共鳴により赤外光が吸収されます。赤外光吸収は特定のガスを検知するガス検知センサや赤外光を室内に入れない遮熱窓への応用が期待されます。この研究は4年生の頃にやっていた合成とその集積技術を応用して研究を進めることができるため、大学院では新しくこのテーマで研究をしました。

-研究の背景や目的について教えてください。

(大石さん)我々の研究目的は周期金属ナノ凹凸構造を有するフレキシブルプラズモニック基板の開発です。有機ELディスプレイ(OLED)の輝度向上への応用が見込まれています。従来OLEDの光取り出し効率は20 %程度であり、フレキシブルプラズモニック基板の金属凹凸により光の回折にて光取り出し効率が向上します。
(竹内さん)この研究はITOナノ粒子という透明な酸化物半導体を使用します。上述したように可視透明でありながら赤外光を吸収するため、遮熱窓への応用が期待されます。また二酸化炭素などのガスは赤外光を吸収するため、ガス検知センサへの応用が期待されます。従来の遮熱窓は金属薄膜を用いていましたが、ITOナノ粒子は透明性が優れており、ITOナノ粒子を積層させることにより赤外光を強く吸収することが分かっているため、可視透明かつ赤外吸収を示す光デバイスの開発を目的として本研究は進めていきました。

研究プロセスについて

-学業の中で直面した課題や困難、そしてそれらを乗り越えるための方法をお聞かせください。

(大石さん)研究の前任者の再現に苦労しました。前任の方は卒業しており、実験ノートや進捗などから実験条件などを調べ、今の実験システムにおいての最適な実験方法や条件を調べることに苦戦していました。小野篤史教授や同じ材料を使用している先輩方に実験結果や自身の考察に対して様々なご意見をいただき、視野が小さくならないように努めていました。
(竹内さん)学部生の頃は授業間の移動や専門的な知識を学ぶため、高校生までで習った分野とほとんど違うことを学ぶため、最初は勉強に苦戦していましたが、同じ学科の友人と相談しながら勉強を進めることができていました。実験のレポートも初めてのことだったので、どのような流れで書けばよいのか手間取っていましたが、先生に最初に教えてもらえるので、提出期限までに仕上げることができました。
4年生や大学院1、 2年生になると、自分の研究だけでなく授業がある曜日がありました。実験の所要時間などを把握し、授業との両立をするのが難しいと感じました。小野先生と結果の共有や今後の方針を話し合う機会を多く作り、効率よくかつ勉学との両立が測れるように週ごとの日程を決めて研究をすすめることにより、研究や授業、アルバイトの両立を行いました。最初は週ごとの目的を決めることや実行することが難しかったのですが、だんだん自分がどこまでであれば実行できるのかを把握できるようになっていったため、大学院1、 2年生では計画の進め方をスムーズにすることができていたと思います。

-電子物質科学について学び始めてから、自身の視点がどのように変化しましたか?

(大石さん)実験において再現性の良い実験条件を見つけることや構造の観察方法に対しての妥当性を示すことの重要性を学びました。
(竹内さん)学部生として電子物質科学科で授業を受け始めてから自分が研究室に所属するまでは、自分が何をしたいのかなどを見直すことができたと思います。週ごとに行われる実験で自分が何に興味があるのかを把握すると、意欲的に勉学に取り組むことができていたと思います。研究室に所属してからも自分の研究で良い結果が出た際にやりがいを感じたりしたため、将来の就職先を決める際のきっかけを決めることができたと思います。

将来の展望について

-今後のキャリアパス(就職・さらなる進学)について、どのように考えていますか?

(大石さん)研究・開発に幅広くかかわれる職に就きたいと考えたため、博士課程に行かず、就職を選びました。
(竹内さん)私が就職を決定したのは、大学院で自分の研究を進めていくとともに企業研究をしていった際に大学の研究と企業の研究では目的が違うことが分かったからです。大学では自分が良い結果を出せるまで突き詰めることができますが、企業は一般社会に普及することを目的とするため、顧客を第一に考えることが重要になってきます。企業研究をしていく中で大学院の研究によって専門知識を学び、世の中を豊かにする貢献をすることができる商品開発をしたいと思うようになったため、大学院卒業後に就職を決意しました。自分は協調性があり周りをよく見て行動することができるため、会社でチームワークなどを発揮することができるのではないかと考えています。また、私は授業費や生活費を両親に工面してもらっているため、早く親孝行をしたいと思ったのも就職の理由の1つです。

学生生活について

-学業と課外活動や個人の興味・趣味をどのように両立していますか?

(大石さん)平日は学業や実験を優先し、土日祝は個人の趣味を優先するようにしていました。テストの時期や実験などでは、先にスケジュールを組み、その後に趣味を満喫する時間を設定して両立をしていました。
(竹内さん)小野研究室は平日は自分の研究を一生懸命行い、ゼミでは英論を自分でスライドにまとめて発表をします。アルバイトは夕方の時間から入っていましたが、日中に行うことを計画的におこない、自分のやらなくてはならないことを整理する時間を設けることによって学業とアルバイトは両立していました。趣味に関しては私は音楽や動画鑑賞が趣味であるため、ご飯の時間に時間を設けて趣味の時間に当てています。やらなくてはならない優先順位を決め、行動することを念頭に置くことで両立することができていたと思います。

大学の環境について

-STEM分野(科学、技術、工学、数学)に在籍されているお二人は、ジェンダーバイアスやステレオタイプを感じたことがありましたか?感じた時または実際に起こった時、どのように解決しましたか?

(大石さん)在学中、「女性だから〇〇」といったような困難はあまり感じませんでした。
(竹内さん)私は感じませんでした。近年は理系女子も増え、そのような固定概念は薄くなってきているのではないかと考えています。

-先生方のお二人の研究へのサポートについて、ご意見・ご感想をお願いします。

(竹内さん)先生は困った際に質問をしに行くと一緒に考えてくれました。私なりの意見を持っていくと私の意見に対しての助言だけでなく、先生自身の意見を共有していただけました。この議論によって私の知識を更に深めることができたのではないかと思います。

-静岡大学工学部電子物質科学コースの施設や学習環境について何かご意見があればお願いします。

(竹内さん)学部生の頃は移動が多かったため、授業間で移動することが少し大変でしたが、テスト期間などでは友人と切磋琢磨して教え合うことができていたので良かったと思っています。その際に大学の図書館を利用しているのですが、談話できるスペースをもう少し増やしていただけると嬉しいと感じていました。研究室に配属してからは自分の研究する箇所周辺に移動が集中したため、上記に記したような問題は解消されました。電子工学研究所という新しいきれいな場所で研究できることがとても嬉しく感じました。

-最後に、大石さん、竹内さんからこれから電子物質科学コースに入学を目指す皆さんへのメッセージをお願いします。

(大石さん)大学では学科内だけでなくサークルやバイトなど、高校と比べ、自身の行動範囲がぐんと大きくなります。女子の友達はすぐにできます。テストの過去問が欲しい場合はサークルに入ることをお勧めします。まとまった大きな休みが取れることも大学生の特権です。色々なバイトに関わり、国内だけでなく国外への旅行や新たな趣味を見つけるに最適です。遊べる時に思いっきり遊ぶことをお勧めします。
(竹内さん)理系の女性は男性に比べて少ないです。工学分野は特にだと思います。私も入学前は友達ができるのかなど不安が多かったです。私は元々人見知りで会話が苦手でした。でも、勇気を出して声をかけるとよいと思います。そのきっかけで私は6年間も仲良くしてくれている友人が増えました。勇気を出すことで自分の交友関係の幅が何十倍にも広がります。社会に出てからも人と人との関係は必要不可欠なものになっていきます。交友関係で不安なことがあれば、自分から勇気をだしてみましょう。勉学面で不安がある方には、先輩後輩の縦の関係をつくることをアドバイスします。私はアルバイトやサークルで同じ学科の先輩がたくさんいました。各授業の先生によっての進め方の違いやテスト前にこれはやっておいた方が良いなどのアドバイスをくれる人がたくさんいます。勉学やアルバイトに集中するのもよいと思いますが、サークルと言う大学特有のものを楽しむのが良いと思います。自分の将来に向かって悔いのない選択ができるように頑張ってほしいと思います。

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